うつ病の治療現場における「薬物療法の今」を知る大切さ。

原因~うつ病の診断は「診断基準」にもとづく


心・精神の病気には「神経症ノイローゼ)」「心身症」「統合失調症」などの様々な疾患がありますが、ここ数年で患者数が増加の一途をたどっているのが「うつ病」です。


うつ病の国内患者数は約700万人とも言われ、特に社会の中核となる20~40歳代の働き盛りの患者数が増えています。


人生でうつ病に一度はかかる人が「16人に1人の割合」に達し、また男女別では、女性の患者数は男性の2倍となっています。


うつ病は紀元前から存在する病気とも言われますが、その原因は脳内の神経伝達物質が変調をきたしたり、あるいは副腎皮質ホルモンの過剰分泌によるといった説が有力であるものの、直接的原因は今日にいたるまで解明されていません



ストレス身体的不調が原因でうつ病になると一般に思われがちですが、これといった原因が特に見あたらないままにうつ病を発症する人もいます。

うつ病になりやすい性格気質を指摘する声もあるものの、直接的な関係までは見いだされておらず、明るく社交的と評判だった人が突然うつ病を発症することなども、決して珍しくはありません。


その一方、本人がうつ病を自称・主張しながらも、医師からはうつ病である旨の診断を受けていない「擬態うつ病」と言われるケースもあり、必ずしも「うつ」の症状があること=「うつ病」、を意味するものでもありません



また、医学的にうつ病は、躁と鬱の状態が交互にあらわれるいわゆる躁鬱病そううつびょうとはまったく別の病気として扱われていることは知っておきたいものです(躁鬱病は、躁状態と鬱状態でそれぞれ薬の種類や投薬量を変えるなど、その治療法もうつ病とは異なります)。




現在は、不眠・気力・興味の減退・思考停止・罪責感など個別的症状が一定基準を満たして揃っており、かつそれらの症状が一定の期間続いた場合に、それをうつ病と認定する「診断基準」が整備されています。

うつ病かどうかの認定は、この診断基準に該当するか否かによって決まります



実はこの診断基準は国によっても多少異なる部分があるのですが、現在日本ではWHO(世界保健機関)の国際疾病分類「ICD-10」や、アメリカ精神医学会の診断基準をベースとした「DSM-ⅣーTR」が主に使用されています。

これらの基準は見直しによる改訂があるため、日本でも将来的にはうつ病の診断基準が変わってくる可能性もあります。


診断基準が統一されていることにより、どの医療機関でも同じ診断結果を導けるメリットがある一方で、現在の診断項目設定では神経症や統合失調症の症状としてのうつ状態も含まれてしまうなど認定範囲が厳しく限定されていないことから、本来のうつ病の治療にも影響が及ぶのではないかといった懸念も出されています。


中心となる投薬治療のポイント


うつ病の治療は、精神科心療内科メンタルクリニックにおいて専門医の診察を受けるところからはじまります。

ちなみに「神経内科」は脳血管障害など神経系の病気が専門となり、うつの治療は対象外ですので注意しましょう。


特にサラリーマンに多くみられる「職場うつ」の場合は、身体的な不調と考えて内科などの受診を優先しがちなため、自らうつ病を疑って専門医の診察を適切なタイミングで受ける人は全体の1割にも満たないと言われています。


身体的不調がうつ病の一症状であることは確かですが、まったく違った方向の投薬治療をはじめたものの病状が一向に改善せず、その間にうつの症状がどんどん悪化してしまう…といったケースも多いのです。

したがって家族や周囲の人間・あるいは本人がうつ病の可能性を察知し、専門医の診察に何としてもたどりつく必要があります。

人によって症状こそさまざまですが、うつ病のもたらす最悪の結果が「自殺」であることは周知のとおりです。

自殺既遂者の8~9割に、うつ病を含む何らかの精神障害がある」というデータもあるそうです。


このように恐ろしい側面を持つうつ病ですが、治療にしっかり取り組むことによりほとんどのうつは完治可能というのが、現在の一般的な合意となっています。


ただし、長い期間にわたり病状が一進一退を繰り返すことが多いため、治療にあたっては最初から早急な回復は期待せず、腰を据えて取り組むことが必要です。


治療中は薬の服用によって一時的に症状が悪化することも多く、そのため途中で薬を飲むのを止めてしまうなど、治療行為を途中で放棄する人も少なくありません。

また完治したと自分で勝手に判断して、その後の休息・通院による経過観察などをおろそかにしたまま、以前の職場環境に再び身を投じてうつを再発してしまうケースなども、実に多く見られるところです。


職業的責任感が強く真面目な人ほど、治療に必要な「休養」を「怠けている」と見なされることを恐れたり、あるいは仕事場への復帰後に遅れを取り戻そうと無理にがんばってしまうため、かえってうつ病の再発に拍車をかけてしまう結果になりやすいのです。


一般にうつの治療は、「(周囲の環境整備を含む)休息」「精神療法」そして「薬物療法」が三本柱と言われます。

なかでも薬物療法は、世界の多くの国々において、うつ病の中心的治療法として重視されています。

しかしそれでも、薬の有効性は4割程度にとどまると言われています。


4~6ヶ月で完治するうつ病もある一方、数種類の投薬を半年以上行ってもさしたる改善が見られず、症状が数年も続く「難治性うつ病」も存在するので、投薬は治療の中心ではあってもすべてではないことは覚えておきたいものです。

投薬治療の効果を最大限に引き出すため、医師の指導のもと、投薬に休息や身辺環境の整備・精神療法を組み合わせていくということです。


通常、投薬は少量からスタートして、最初の3ヶ月程度は症状の推移や副作用の有無をみながら薬の量を調整していきます。

その後はうつの症状が無くなるまで薬の服用を続け、無くなったように思えてからも1年程度はそのまま飲み続けることが大変重要です。


うつの治療薬は一般に即効性はなく、なにがしかの効果に気づくまで最低でも1週間~数週間程度かかります。

うつ病は「再発性の強い病気であり、再発の可能性は5~8割程度はあると言われます。


このため、長い期間にわたって治療薬を飲み続けることがうつ治療のそもそもの前提と言えますし、それによってうつの再燃(治療中の症状悪化)や再発(治療終了後の発症)の予防を兼ねることにもなるわけです。

WHO(世界保健機関)の指針
では、「改善後6ヶ月間の薬の継続投与、さらに6ヶ月間の外来経過観察」が推奨されています。


自己判断で薬の服用を突然止めてしまういわゆる「休薬」は、再燃や再発の可能性を高めるだけでなく、うつ病の慢性化を招く危険性も高いので絶対に止めるようにしましょう。




治療現場における第一選択薬 「SSRI」「SNRI」とは


現在、日本国内でもっとも使用されている抗うつ薬は「SSRI選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」で、1999年に登場しました。


SSRIは、日本での商品名は「パキシル」「ルボックス」「デプロメール」「ジェイゾロフト」、薬剤の種類としては3種類があります。

同じSSRIであっても薬剤の種類ごとにそれぞれ特徴を有しており、作用時間主な対象となるうつ病などによって使い分けられます。


SSRIは脳内物質セロトニンだけ」に作用してセロトニンの不足を抑え、不安や緊張の抑制に働きかけます。


SSRIは依存症のリスクや副作用も少なく、うつ病の治療現場では第一選択薬として処方されることが多いです。


SSRI以外にもうひとつ、「SNRIセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)」があります(商品名 「トレドミン」)。

不安や緊張に関わる脳内物質セロトニンに対し、ノルアドレナリンは無気力や興味に関わる脳内物質で、SNRIはセロトニンとノルアドレナリンの両方に作用する薬です。


現在、日本のうつ病の医療現場で処方される薬の半数以上は、SSRIかSNRIのいずれかと言われています。


うつ病はセロトニンやノルアドレナリンだけを原因に発症するわけではないので、この二つの投与で効果が見られないという場合も当然あります

そのような場合は、他の薬の投与も検討されることになります。


50年以上前から使用されている「イミプラミン」を含めた「三環系抗うつ薬が従来薬として位置づけられていますが、緑内障や心臓疾患のある患者は使用できません。


SSRI・SNRIは従来薬に比べ副作用が少ないとされるものの、SSRI吐き気・食欲不振などの消化器系障害、SNRI動悸やめまい・便秘・排尿障害などの副作用があります。


抗うつ薬は長期間の服用が前提となるため、副作用が心配な方は医師に相談し、服用量の調整副作用を抑える薬の追加、あるいは服用する薬の変更などを行うことになります。



うつ病はまだその本態が解明されていない病気であり、薬も症状に応じ対処療法的に投与されるため、一定の効果を期待できる反面、すべてのうつ病に効くわけではないこともまた理解したうえで、治療に臨む必要があります。


また、うつ病については新しい診断方法や治療法の研究、新薬の治験が現在進行中であり、これらについても日頃から最新の情報を得るよう努めたいものです。



参考サイト


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